先日、好きなパンクバンドのライブを見るために、特急で瀬戸大橋を渡り、岡山から新幹線で大阪に向かっていた時のことです。
新神戸のあたりで、新幹線に乗るとよく見る「車内販売のカート」を押したお姉さんが僕の席の近くまでやってきました。 反対側の窓際に座っていたお客さんが声をかけ、飲み物を注文したのですが……その時、販売員のお姉さんが飲み物を注ぎながら、こう言ったのです。
「プラス100円で、〇〇もお付けできますが、いかがですか?」
僕は心の中で叫びました。 「えぇ〜! 車内販売のお姉さんが、息を吐くようにアップセル(単価アップの追加提案)してるぅぅ〜!!」
いやはや、驚きました。JRの車内販売でも、こんな高度なセールス戦術が当たり前のようにマニュアル化されているんですね。
今日は、多くの経営者が「売り込みになりそうで怖い…」と躊躇してしまう『アップセル』と『クロスセル』の明確な違いと、やればやるほどお客さんに感謝される「追加提案の不変の原理原則」について解説します。
アップセルとクロスセルの明確な違い

まずは、この2つの戦術の基本を押さえておきましょう。
- アップセルとは: お客さんが商品を購入する際に、より上のグレードの商品、あるいはより高単価な条件を勧めること。
- (例)スマホを買うときに、「写真や動画をたくさん撮るなら、すぐ容量がいっぱいにならないように、もうひとつ上の256GBのモデルにしておいた方が安心ですよ」と上位機種を提案するアプローチです。
- クロスセルとは: 購入した商品に関連するものを追加販売すること。
- (例)カメラを買う人に、三脚やSDカードを勧めるなどですね。
- 【第3の矢】アフターセールスセルとは: 商品を購入した(または利用した)直後に、保証や定期メンテナンスなどのアフターサービスを追加提案すること。
- (例)家電を買った人に「月額〇円で3年の延長保証がつけられます」と案内したり、美容室で帰る際のお客さんに「今の綺麗な状態を保つために、1ヶ月後に定期メンテナンスの予約を入れておきませんか?」と提案したりするアプローチです。
また、先日僕がスーパーに野菜ジュースを買いに行ったときのことです。 たまたまお酒が並んでいる棚の前を通ると、お酒の棚の横に「おつまみセット」がたくさん吊り下げられていました。これも立派なクロスセルです。(お酒を買いに来た人に、ついでにおつまみを買わせる戦術ですね)
僕は普段お酒を一切飲まないので、お酒の棚など見ないのですが……これを見た瞬間、「おっ、クロスセルやってる! 他にはどんなものをクロスセルしているんだろう?」と気になってしまい、野菜ジュースそっちのけでいろんな棚を見て回ってしまいました(笑)。 いつもながら、マーケティングのこととなると若干(?)変態と化して暴走してしまいます。
さて、なぜこれらの追加提案が効果的なのか? それは、お客さんが財布を開こうとしている「まさにその瞬間」、あるいは商品を買って「あなたへの信頼感が高まっている直後」に行うからです。人がものを買うとき、一番心理的なハードルが高いのは「最初の決断」です。すでにその決断を終えているタイミングでの追加提案は非常に受け入れられやすく、労力はいつもの接客に「たったひと言」を追加するだけです。
追加提案は「売り込み」ではない。「義務」である

「理屈はわかるけど、やっぱり『ついでにこれもどうですか?』なんて言うと、ガツガツ売り込んでいるみたいで嫌われないか心配です…」
もしあなたがそう思っているなら、今すぐその勘違いを捨ててください。 正しいクロスセルやアップセルは、売り込みではありません。お客さんが商品を買った後に起こるであろう「悲劇(問題)」を、事前に解決してあげるための『義務』です。
例えば、これから10万円もする最新のスマートフォンを買うお客さんがいたとします。 あなたは、お客さんが数日後にスマホをコンクリートに落とし、液晶画面をバキバキに割って絶望するリスクを知っています。だからこそ、こう提案するのです。
「スマホを落として画面を割ってしまう方が非常に多いんです。修理に何万円もかかってしまうので、絶対に割れないように、念のため専用の頑丈なカバーと保護フィルムもご一緒にいかがですか?」
これは売り込みでしょうか? 違いますよね。明らかにお客さんの未来を守るための、愛のある提案です。 お客さんの方も「あ、この店員さんは私のことを心配して言ってくれているんだな」と確実に伝わります。
もし、あなたが「売り込みだと思われたくないから」という自分都合の理由でクロスセルを怠り、後日お客さんが画面を割ってしまったらどうなるでしょう。あなたは結果的に、お客さんに「すぐ壊れる無駄な買い物」をさせてしまったことになります。それはプロとして失格ですよね。
お客さんが「望む結果」を確実に手にするための手助け【業種別の具体例】

本来のアップセルやクロスセルの目的は、『お客さんが望んでいる最終結果を、効率よく、確実に得られるように手助けしてあげること』です。これは有形の商品(物販)でも、無形のサービス業でも全く同じです。
- 【パソコン販売の場合】 用途ギリギリの安いパソコンを買おうとしている人に、「そのスペックだと半年後に動きが遅くなってストレスが溜まりますよ。少しだけ予算を足して、こちらの余裕のある上位モデル(アップセル)にしておきませんか?」と提案し、数年間のサクサク動く快適な環境を約束してあげる。
- 【美容室の場合】 せっかく綺麗に染まったカラーが、市販のシャンプーのせいで3日で色落ちしてしまわないように、「このカラーを1ヶ月長持ちさせるための専用トリートメント(クロスセル)」を提案して、綺麗な髪を保たせてあげる。
- 【コンサルタントの場合】 グループ講座に申し込んでくれたお客さんに、「一人でつまずかずに、より早く確実に売上の成果を出したいなら、マンツーマンの個別サポート(アップセル)」を提案してあげる。
これらはすべて、お客さんが「望んでいない悪い結果(後悔)」になるのを未然に防ぎ、最良の結果に導くための手助けです。
売り込み感をゼロにする「魔法のクッション言葉」
とはいえ、いざ追加の提案をするとなると、どうしても緊張してしまうかもしれません。そんなときは、「念のため」「せっかくなら」というクッション言葉を文頭に置いてみてください。
「念のため、保護フィルムもいかがですか?」 「せっかくきれいに染まったので、専用トリートメントもいかがですか?」
このひと言を添えるだけで、売り込み感は完全に消え去り、「あなたの未来の失敗を防ぎたい」という100%の優しさ(プロとしての気遣い)としてお客さんに伝わります。
まとめ:すべての販売はお客さんのため

アップセルやクロスセルを、決して「自社の利益をあげるためのテクニック」だと勘違いしないでください。 あなたが「少しでも売上をあげるために、売りつけてやろう」という下心でテンプレ通りの追加販売をした場合、お客さんはそれを野生の勘で敏感に察知し、二度とあなたの元には戻ってきません。
常に意識しておくべき原理原則は、『すべての販売はお客さんのため』ということです。
目先の利益を追いかけるのではなく、「この人が最高の結果を出すためには、他に何が必要だろうか?」という視点を持って、愛のある提案を言葉にしてみてください。 (かかる労力は、いつもの接客にひと言を添えるだけなので、ほぼゼロですよ!)
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
西田貴大
P.S. 今回お伝えしたアップセルやクロスセルのように、ビジネスには「ちょっとした構造の違い(見せ方)」が大きな結果の差を生むポイントがいくつも存在します。
「いろいろ試しているのに、なぜか客単価があがらない…」
「利益が手元に残らず、いつも忙しいまま…」
もしあなたがそう感じているなら、あなたのビジネスの「売れる構造」が根底からズレている(無意識にお客さんを取りこぼしている)可能性が高いです。
現在、あなたのビジネスの隠れた課題を論理的にあぶり出す『マーケティング・ボトルネック診断』を無料で公開しています。 いくつかの質問に直感で答えていただくだけで、今すぐ対処すべき「本当の課題」と、次に打つべき具体的な一手が見えてくるはずです。小手先のテクニックに振り回される時間は、もう終わりにしましょう。
> 『マーケティング・ボトルネック診断』を受けてみる
https://madmarketing.jp/lp/diagnosis
P.P.S.マーケティングの有名な話で、「スーパーで子供のオムツを買うお父さんは、ついでにビールを買う確率が高い(だからオムツの横にビールを置け)」というクロスセルの話があります。
先日、スーパーに行った際に「本当にオムツの横にビールがあるかも!」と思って探してみたのですが……置いてなかったです(笑)。
なぜお酒コーナーだけクロスセルが優秀だったのか、謎が深まりました。


コメント