From:西田貴大
「自社の商品をもっと高く売りたいけれど、お客さんから『高い』と断られそうで怖い…」
「一番売りたい上位モデルではなく、いつも一番安いモデルばかり売れてしまう…」
もしあなたが今、こんな価格設定の悩みを抱えているなら、少しだけ人間の「不合理な心理」について学ぶ必要があります。
実は、人間は商品の価格を見たとき、それが絶対的に高いか安いかを判断しているわけではありません。常に「何か」と比較して、相対的に高いか安いかを錯覚しているだけなのです。
今日は、お客さんに「高い」と思わせず、無意識のうちにあなたが一番売りたい上位商品を選んでしまう行動経済学の2つの心理トリガー、『アンカリング効果』と『おとり戦略』の構造について解説します。
10分1,000円のシミュレーターを「高すぎる」と感じる理由

僕がいつも車を見てもらっているお店に、車の遠心力まで忠実に再現してくれる、かなりリアルなレーシングシミュレーターがあります。 導入されてから結構長いこと経つのですが、僕はまだ一度も乗ったことがありません。
理由は単純です。「10分で1,000円」という価格設定が、高すぎると感じるからです。
これを聞いて、あなたは「え? 1,000円くらい別にたいした金額じゃないでしょ?」と思ったかもしれません。 では、なぜ僕がこの1,000円を高いと感じるのか?
それは、僕の頭の中に「本物のサーキットの走行会なら、3時間半走り放題で2,500円だ」という絶対的な基準が出来あがってしまっているからです。 「3時間半で2,500円」という基準(比較対象)があるからこそ、「たった10分で1,000円」はあり得ないほど高いと感じてしまうのです。
人間はこのように、自分の中にある「基準」と比較して、価格の価値を決定します。この心理を行動経済学で『アンカリング効果』と呼びます。船の錨(アンカー)を下ろすように、最初に認識した数字が基準として頭に固定されてしまう現象のことです。
客単価をあげる「アンカリング効果」の作り方

このアンカリング効果は、ビジネスで非常に簡単に、そして強力に活用することができます。 やり方はとてもシンプルです。
『最初に、高い金額の商品を見せる』
たったこれだけです。 最初に高い価格を見せて頭の中に「高い基準(アンカー)」を作ってしまうと、その後に見る通常の価格が、錯覚によって「ものすごく安い!」と感じやすくなるのです。
たとえば、先ほどのレーシングシミュレーターを僕に売り込むなら、アンカリングを使ってこう言えばいいのです。
「西田さん、この店に置いてあるシミュレーターで3時間半走ると、21,000円もかかってしまいます。でも、もし本物のサーキットの走行会なら、同じ時間走ってもたったの2,500円で済みますよ。どうです? 走行会に行きませんか?」
いかがでしょうか。最初に「21,000円」という高い基準を植え付けられたことで、2,500円がものすごくお得に感じませんか?
かの有名な行動経済学者であるダン・アリエリー教授のオークション実験でも、「自分の社会保障番号の下2桁(ランダムな数字)」を紙に書かせただけで、その数字が大きい人ほど、オークションの入札額が高くなる(高い数字にアンカリングされる)ことが実証されています。 アンカリングは、仕掛けられていると分かっていても無意識に影響を受けてしまうほど強力な心理トリガーなのです。
もしあなたの商品が「高くて売れない」と悩んでいるなら、今の商品よりもさらに高価な「最上位モデル(おとり)」を作って、最初にそれをお客さんに見せてください。それだけで、今売っている本命の商品が「安い」と錯覚され、飛ぶように売れるようになります。
比較の罠。無意識に買わされる「おとり戦略(松竹梅の法則)」

さて、価格を操るもう一つの強力な心理トリガーが『おとり戦略(松竹梅の法則)』です。 これは、あえて「選ばれないための商品(当て馬)」を用意することで、あなたが一番売りたい商品を魅力的に見せる手法です。
例えば、あなたがカメラを買いに行ったとします。 お店には、特徴がまったく違う2つのカメラが売られていました。
- カメラA: ズーム機能が凄いが、重くて価格は46,000円
- カメラB: ズームは弱いが、軽くて価格は39,800円
人は、特徴がまったく違う商品を2つ並べられると、「機能を取るか、軽さを取るか…」と悩み、決断できなくなってしまいます。
しかし、ここに「同じA社の古いモデル(カメラA-)」が並んでいたらどうなるでしょうか?
- カメラA-(おとり): ズームも少し弱く、重くて、価格は48,000円
- カメラA(本命): ズームが凄くて、重くて、価格は46,000円
- カメラB: ズームは弱いが、軽くて価格は39,800円
この3つが並んだ瞬間、お客さんの脳内で魔法が起きます。 お客さんは、特徴が違う「AとB」を比べるのをやめ、似たような性能なのに明らかに劣っている「A-」と「A」を比較し始めます。
そして、「古いモデルのA-が48,000円もするのに、最新で高機能なAが46,000円で買える!これは絶対にお得だ!」と錯覚し、無意識のうちにあなたが一番売りたかった本命の「カメラA」を選んでしまうのです。
このように、明らかに魅力の劣る選択肢(A-)をあえて混ぜることで、本命の選択肢(A)を際立たせる手法が『おとり戦略』です。
「これは形のないサービスでも同じです。例えばコンサルティングなら、【A:月1回の面談(5万円)】と【B:月1回の面談+チャット相談無制限(10万円)】の間に、【A-:月2回の面談のみ(9万円)】という『おとり』を挟むだけで、お客さんはBを圧倒的にお得だと錯覚して選んでしまいます。」
日常に潜む「おとり商品」の罠

実はこのおとり戦略、僕たちの日常の買い物にも巧妙に仕掛けられています。
数年前からうちで使っている「食洗機用の洗剤」があるのですが、スーパーで見ると、なぜか「正規のボトル入りの洗剤」よりも「詰め替え用のパック」の方が価格が高いという逆転現象が起きていました。普通に考えれば、容器代がかからない詰め替え用の方が安いはずです。
なぜ、こんな意味の分からない価格設定をしているのでしょうか? それは、「詰め替え用」が完全なおとり商品(当て馬)だからです。
- 詰め替え用(おとり): 容器がないのに価格が高い
- ボトル版(本命): 容器がついているのに価格が安い
- 他社製品: よくわからない
この状態を作られると、お客さんは「他社製品」を検討するのをやめ、「詰め替え用より安いなら、絶対ボトル版を買ったほうがお得だ!」と、自社の本命商品(ボトル版)を喜んでカゴに入れてしまうのです。
僕自身も先日、家電量販店でキーボードを買う際に、この「アンカリング」と「おとり」の合わせ技に見事にはめられ、無駄に最高級のものを買わされた経験があります(笑)。
お店には、以下の3つの商品が並んでいました。
- 【梅】 普通のキーボード:7,700円
- 【竹】 人気のキーボード(おとり):13,750円
- 【松】 プロ仕様の最高級モデル(本命):定価18,480円 ➡ 特別割引 9,800円!
これを見た瞬間、僕の脳内で2つのバグが起きました。 第一に、定価の「18,480円」という高い数字(アンカー)を見たことで、9,800円が異常に安く感じました。 第二に、13,750円の【竹】(おとり)と、9,800円の【松】(本命)を無意識に比較してしまい、「どう考えても、性能が劣る竹を13,750円で買うバカはいない!松一択だ!」と完全に誘導されたのです。
結果、僕はたいしてゲームもしないのに、一番高いプロ仕様のゲーミングキーボードを「お得だ!」と喜んで買ってしまいました。 マーケターの端くれとしてお恥ずかしい限りですが、それだけこの心理トリガーは強力に人間の脳をハックしてしまうのです。
まとめ:悪用厳禁!お客さんの背中を押すために使え

いかがだったでしょうか。
- 人間は「最初の数字(アンカー)」を基準にして、高い・安いを錯覚する。
- 売りたい商品よりさらに高い「最上位モデル」を最初に見せろ。
- あえて魅力の劣る「おとり商品」を並べて、本命を際立たせろ。
この『アンカリング』と『おとり戦略』は、お客さんの脳をハックして無意識に商品を選ばせてしまう、極めて強力な劇薬です。
だからこそ、最後に一つだけ強く警告しておきます。 絶対に、お客さんを騙して質の悪いゴミを売りつけるために使わないでください。
お客さんが本当に抱えている深い悩みを解決できる「最高のサービス(本命)」があるのに、価格が理由で踏みとどまっている。そんな時に、彼らの背中をそっと押して、一番良い商品を選ばせてあげる「愛のある補助線」として、この戦略を使ってくださいね。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
西田貴大
P.S. 本文でお伝えした通り、人間は価格の比較によって無意識に買うものを決められてしまいます。
もしあなたが今、「なぜかいつも一番安い商品しか売れない」「客単価があがらない」と悩んでいるなら、あなたの価格の見せ方(比較の構造)が根本から間違っている可能性が高いです。
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