From:西田貴大
この間、ネットのニュースを見ていたところ……キングコング西野さんがニューヨークで個展を開催されているという記事を見かけました。
個展は、大ヒットした絵本『えんとつ町のプペル』を中心としたもので、初日には2,000人以上もの人が来場したそうです。(ニューヨークで、ですよ!)
西野さんといえば、ビジネスやマーケティング業界でも話題になることが多い人物です。 僕も以前、あるマーケティングのセミナーに彼が登壇されていたとき、初めて直接お話を伺う機会がありました。
正直、お話を聞く前は「まぁ、芸人さんの知名度を使ったビジネスでしょ」と、少し舐めていたところがあったのですが……実際に彼が行った戦略を聞いて、「いや〜、その発想は無かったわ!」と思わず唸らされました。
彼は、自分が「普通の絵本作家」と同じ作り方・売り方をやっていたのでは絶対に勝てないと悟り、まったく新しい「売れない商品の売り方」を開発していたのです。
1.商品のカテゴリーを「本」から「お土産」に変えた

まず、西野さんがやったのが「人は何を買うのか、何を買わないのか」を徹底的に分解することでした。
彼は、絵本を普通に本屋で売っていたのでは、自分なら絶対に買わないということに気づきました。では、逆に人は何にだったらお金を出すのだろう? と考え抜いた結果……彼が出した答えは『思い出(お土産)にはお金を出す』というものでした。
例えば、旅行先などで「記念だから」と言って、普段の生活では絶対に買わないようなペナントや謎の置物などを買ってしまった経験はありませんか? (西野さん自身も「普段生活してて『よっしゃ!そろそろペナントでも買おか!』なんて1回も思ったことない」と笑いをとっていました)
この人間の心理をもとに、西野さんは「絵本の原画展を開催し、その出口で『お土産』として絵本を売る」というまったく新しいビジネスモデルを開発したのです。
この仕組みが恐ろしいのは、お土産には「飽き」がこないということです。原画展というイベントを回し続ける限り、後ろで商品(絵本)が自動的に売れ続ける状態になっています。
2.お客さんを作り手にする「顧客巻き込み戦略」

顧客巻き込み戦略(参加型マーケティング)とは、完成した商品をただ売るのではなく、企画や製作の「プロセス」にお客さんを参加させ、共犯者(ファン)にしてしまう手法のことです。西野さんはこれを、見事に事業へ取り入れました。
もう一つ、西野さんが取り入れたのが「分業制」と「クラウドファンディング」の組み合わせです。
絵本業界に分業制がなかったのは「単純にお金(予算)がないから」という理由だったのですが、彼はその資金をクラウドファンディングで調達しました。 しかし、彼の本当の狙いは資金集めではありません。「製作に関わる人(共犯者)を増やすこと」でした。
普通、本を書くと必ず1冊(自分の分)は売れます。2人で作れば最低2冊は売れる。 そのことに気づいた西野さんは、クラウドファンディングを使って1万人もの人を製作のプロセスに巻き込みました。
その結果どうなったか? 予約段階で、作り手である1万人が確実に買ってくれるため「1万部」の売上が確定。
さらに、その1万人が「自分が関わった作品だ!」と勝手に宣伝しまくってくれたおかげで、絵本はあっという間に大ヒットしました。
セミナーで彼が語った『作り手を増やすことが、1番の広告である』という言葉は、まさに顧客巻き込み戦略の本質を突いています。
【プロの視点】西野氏のビジネス展開にある「もったいない弱点」

ここまで聞くと、「西野さんって天才マーケターじゃん! 全部真似しよう!」と思うかもしれません。
たしかに、既存の商品のカテゴリーを変え、お客さんを巻き込んでいくアイデアと行動力において、彼は紛れもない天才です。
しかし、マーケティング&セールスの仕組みを構築する専門家として、僕から一つだけ指摘させてください。
後日、彼がYouTubeなどで自身のビジネス展開について語っているのを見たのですが……プロの目から見ると、彼のビジネスの繋がり(導線)は、あっちこっちに散らかっていて非常に「もったいない」状態になっていました。
Aの事業とBの事業が大枠で見れば一応繋がっているし、補完し合ってもいるのですが……それぞれの事業の距離が「遠すぎる」のです。
お客さんがAのサービスに感動して、「もっと深く関わりたい!」と思ったときに、次に案内されるBのサービスへの繋がりが唐突だったり、シームレスに流れる仕組みになっていなかったりしました。独学で天才的なアイデアを次々と形にしているからこそ、全体を繋ぐ導線が散らかってしまっているのでしょう。
実はその後、渋谷を歩いていたときのことです。たくさんの人が歩いている道で突然「おつかれっした!」という挨拶が聞こえたのですが、その声があまりにも異常なほど高いエネルギーを発していました。
「こんなすごいエネルギーを持った人がいるのか。絶対一目見ねば!」と振り返って探したところ……それが西野さん本人だったのです。皮肉にも、この記事の元となる分析をした6年後に、生でその凄まじさを体感することになりました。
彼ほどの圧倒的な知名度と、周囲を巻き込む熱狂的な支持(とエネルギー量)があれば、どれだけ事業が散らかっていて導線が遠くても、力技でお客さんを動かし、売上をあげることは可能です。
しかし、僕たちのような普通の中小企業がこれを真似してしまうと、致命傷になります。 Aの事業からBの事業への距離が遠すぎると、せっかく集めたお客さんは途中で「やっぱりいいや」と迷子になり、全員離脱してしまうからです。
凡人が勝つためには「アイデア」と「緊密な繋がり」が必要

僕たちのような知名度のない経営者がビジネスで勝つためには、西野さんのように「商品のカテゴリーをズラす(お土産にする)」、「お客さんを巻き込む」という視点を取り入れることは非常に重要です。
しかしそれと同時に、興味を持ってくれたお客さんを、迷わせることなく次の商品・次のサービスへとスムーズに案内する「緊密で無駄のないビジネスの繋がり」を裏側に構築しなければなりません。 (例えば、フロントの集客商品で生じた新たな悩みを、次のバックエンド商品が完璧に解決する流れになっており、お客さんが迷わず階段を登れる状態のことです)
どんなに素晴らしい集客のアイデアや商品があっても、それを受け止めて次に流す「仕組み」が散らかっていては、売上はザルから漏れ落ちていくばかりです。
「天才の閃き」に頼るのではなく、不変の原理原則に基づいた「シームレスに繋がる売上の仕組み」を自社に組み込むこと。それこそが、長期的に安定したビジネスを作る唯一の道なのです。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
西田貴大
P.S.
「良い商品を作っているのに、どうして売れないんだろう」、「複数の事業を展開しているのに、相乗効果が生まれない」
もしあなたが今、そんな状況に陥っているのだとしたら、それは今回の話のように「事業と事業の距離が遠すぎて、導線が散らかってしまっているサイン」かもしれません。
どれだけ素晴らしい商品を持っていても、ビジネス全体の繋がりに欠陥があれば、売上は絶対にあがりません。 まずは客観的な視点で、自社のビジネスモデルのどこに無理があるのか、どこで売上がせき止められているのか(ボトルネック)を特定してみてください。
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