From: 西田貴大
午後、12:13分…
僕は、終点である地元の駅で折り返したばかりで、県庁所在地の高松駅に向かって発車しようとしている電車にギリギリで滑り込んだ。
出発の笛が鳴る。ふと外を見ると、先ほどまでの豪雨は収まり、雲間から光が差し込んでいる。「どうやら高松に着く頃には晴れるようだ」 僕は電車に間に合った安堵感を感じながら、リュックの中から右手でピンク色の本を取り出し、入り口近くの席に座った。
そして、そのピンクの本を両手で開いた瞬間… 僕は、もう何も思い出したくないと心の奥底に封印し、記憶から完全に消し去っていた「思春期のころ」に戻っていた。
その時、僕が手にしていたのは、教育講演家であり僕の友人でもある木村玄司さんの『何を言っても聞かない思春期の我が子が「ちょっと頑張ってみようかな」と言い出すシンプルな3つの秘訣』という子育ての本でした。

「独身で子供もいない西田さんが、なんで子育ての本を?」と思われるかもしれません。きっかけは友達の初出版の本だからということで買わせていただきました。 しかし、この本を読み進めるうちに、僕は確信しました。ここに書かれている「思春期の複雑な心に火を灯す心理学」は、会社で社長を悩ませる『大人の部下を動かすマネジメントの原理原則』と完全に一致している、と。
「何度言っても、うちの社員は主体的に動かない」
「モチベーションが低くて、結局自分が手直しすることになる」
もしあなたが今、こんな風に部下のマネジメントに悩み、深夜のオフィスで大きなため息をついているなら、この記事はあなたのためのものです。
結論から言います。 あなたの会社の従業員が動かないのは、彼らが生まれつき怠惰だからでも、あなたのカリスマ性が足りないからでもありません。 経営者であるあなたが、「人が動けなくなる時の本当の心理」を理解しないまま、正論という名のムチで彼らを叩き続けているからです。
「もっと頑張れ」「なぜ言われた通りにできないんだ」 真面目で優秀な経営者ほど、自分が気合いと根性で壁を乗り越えてきた成功体験があるため、部下にも同じような熱量と行動力を求めてしまいます。
しかし、残酷な事実をお伝えします。 心が折れかかっている人間や、どうしても一歩が踏み出せない人間に対して、「頑張れ」という正論をぶつけることほど、残酷で無意味なマネジメントはありません。
「頭では分かっているのに動けない」人間の絶望

なぜ、そんなことが言い切れるのか? それは僕自身が過去に、精神を完全に破壊され、「やらなければいけないと頭では分かっているのに、どうしても体が動かない」という地獄を経験しているからです。
少しだけ、僕の昔話をさせてください。
僕は、親族がみんな有名大学を出ている、いわゆるエリート一家に生まれました。 幼いころから「優秀であれ」という周囲の強烈な期待とプレッシャーの中で育ちましたが、思春期のころ、ある教師との出会いによって僕の人生は暗転します。
その教師の教室は、まるで軍隊でした。朝は毎日7時からマラソンを強制され、気に入らない発言をした生徒には、まるでボクシングの終盤のような左右のフックを連打。忘れ物をしたら三角定規の角で殴られる。機嫌が悪いときには生徒に当たる。
基本的に何があろうと学校を休むことは許されず、僕が股関節が外れる怪我をして休んだときも「骨折して休むんだったら許してやる!」と激怒されました(その後本当に骨折して休んだら、結局「骨折ぐらいで休むな!」と怒られましたが)。
「休んでいいのは体温が40度を超えてから」と言われていたのに、ある日その先生自身が「38度」で休んだときは、さすがに「え?休むんは40度超えてからちゃうの!?」とさすがに呆れました(笑)。
この当時の話を、幼馴染の消防士の先輩に話したところ「なにそれ?軍隊やん」とドン引きされました。命懸けの消防士がそう言うレベルの厳しさです。
そんな理不尽と暴力が支配する空間の中で、当然のように陰湿ないじめが蔓延していました。
僕はいじめのターゲットになりながらも、やられたらやり返し、時にはターゲットにされた他の子を密かに助けたりもしました。 しかし、いじめの順番が再び僕に回ってきたとき、僕が助けたはずのクラスメイトたちは、誰一人として味方にはなってくれませんでした。
理不尽な暴力、終わらないいじめ、そして信じていた人間からの裏切り。 それらが重なった結果、僕のメンタルは完全にボロボロになり、ある日突然、学校に行けなくなりました。
周りからの期待に応えなければいけないことは分かっている。学校に行かなければいけないことも分かっている。でも、心が完全に折れてしまい、どうしても動けなかったのです。 そのまま僕は鬱になり、エリート一族の中で「唯一の落ちこぼれ」となりました。
でも、今思えばこの期間があったからこそ、自分が興味を持った分野(物理学など)を徹底的に学ぶことができました。スタンフォード大学やMITの講義を見たりして勉強したので、一般教養は普通にあり「バカだ」と言われたことは一度もありません。
そこから投資に出会い、運命がすごい勢いで転がり、トップマーケッター達から知識を1日10時間以上、急速に吸収して、今ではこうしてマーケティングコンサルタントをやっているわけです(不思議なものですね)。 あの頃のことはもう許していますし、結果的にこうなって良かったと思っています。(でも、人生をやり直せるとしても、あの時期だけは絶対にやり直したくありませんが!)
だからこそ、僕は痛いほど分かるのです。 「頑張らなければいけないことは分かっているのに、動けない人間」の絶望感が。
そして、そういう状態の人間に対して、上から「頑張れ」と声をかけることがいかに無力で、時に相手をさらに深く追い詰める暴力になってしまうかということが。
マネジメントにおいて本当に必要なのは、社長の気合いや精神論を押し付けることではありません。 「どうすれば人間の心は前を向き、自発的に行動したくなるのか」という、人間の心理に対する深い理解なのです。
子育て本に隠された「マネジメントの本質」

では、どうすれば彼らの心は前を向き、自発的に行動したくなるのか。 そこで答えをくれたのが、僕が電車の中で手にした玄司さんの本でした。
ここからは、この本から僕が「ビジネスでそのまま使える!」と確信した、従業員のやる気を引き出すための2つの心理学的なアプローチをご紹介します。
1. 「マズローの欲求段階説」から学ぶ部下育成の罠。「認めるから、頑張る」
多くの経営者が、マネジメントにおいて「順序」を致命的に間違えています。「成果をあげたら認めてやる」「頑張っているから褒める」という、条件付きの承認をしていませんか?
実は、人間の心理はその逆なのです。「先に認められるからこそ、その期待に応えようと頑張り始める」のが、不変の原理原則です。
これを論理的に説明しているのが、心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求段階説(欲求5段階説)」です。
マズローによれば、人間の欲求はピラミッドのように5つの階層に分かれており、下の階層が満たされることで、より高い階層の欲求が生まれるとされています。
- 生理的欲求: 生きていくための本能的な欲求(食欲、睡眠など)。
- 安全の欲求: 身の安全や経済的な安定、不安のない状態への欲求。
- 社会的欲求(所属の欲求): 孤独を避け、家族や組織などの集団に属したいという欲求。
- 承認欲求(尊厳欲求): 周りから認められたい、価値ある存在だと思われたいという欲求。
- 自己実現欲求: 自分の持つ能力を最大限に発揮し、創造的な活動がしたいという欲求。
ここで経営者が注目すべきは、第4段階の「承認欲求」と、最上位の「自己実現欲求」の関係です。
多くの社長は、部下に対して「もっと主体的に動け」「自分の能力を限界まで発揮しろ」と求めます。これは、マズローでいうところの最高次の欲求である「自己実現欲求」を刺激しようとしている状態です。
しかし、もしその部下が、日々の理不尽な叱責や「正論のムチ」によって心が折れ、「自分はこの会社に必要とされていないのではないか?」という不安の中にいるとしたらどうでしょう。
承認欲求という「下の土台」がグラグラの状態では、その上の自己実現欲求(自発的に頑張ろうという意欲)など、湧いてくるはずがないのです。
「認められる(承認)」という土台があって初めて、人は「もっと高い成果を出したい(自己実現)」というステージへ進むことができます。
ある有名な実験では、クジ引きで選ばれた普通の生徒たちを、担任に「彼らは非常に優秀なエリートだ」と(嘘をついて)預けたところ、学期末には本当に全員が優秀な成績をおさめたという結果も出ています。これを「ピグマリオン効果」と呼びますが、まさに「相手をどう認めるか」が、その人の未来の能力を決定づけるのです。
2. 女性社員のやる気を削ぐ「解決策の提示」と正しい接し方
もう一つ、仕事の現場でよく起こる失敗が「男女の脳の違い」を無視したコミュニケーションです。 部下から悩みや相談を受けたとき、あなたはどう対応していますか?
男性脳を持つ経営者は、どうしても「こうすれば解決するぞ」と、すぐに答え(解決策)を提示してしまいがちです。 しかし、相手が女性社員である場合、これは逆効果になることが多々あります。
根本的な脳の仕組みとして、多くの女性は「解決」よりも先に「共感(話をきいてほしい)」を求めています。 悩みを話しているうちに、自分の中で思考を整理し、勝手に解決策を見つけ出していく力を持っているのです。
僕も過去、女性のクライアントさんに必死で解決策を提案してしまい、「そうじゃないんだけどな…」という微妙な空気にしてしまった失敗が何度もあります(苦笑)。
彼女たちのやる気を引き出すために必要なのは、アドバイスをすることではなく、ただ我慢して最後まで話をきくことです。 「それは大変だったね」という共感があるだけで、彼女たちは安心して、再び自発的に走り出すことができるようになります。
自発的に動く組織を作る「SMARTの法則」

もう一つ、本の中で語られているのが「具体的な目標の決め方」です。 (※玄司さんはあえて専門用語を使っていませんが、ビジネスでいうところの『SMARTの法則』です)
社長が「今月はこれだけやれ」と上から数字を押し付けるのではなく、従業員自身に「いつまでに、どれくらいの数字を目指すのか」を具体的に決めさせ、紙に書き出させること。そして、それが達成できたときにどんな良いことがあるのかをイメージさせてあげる手法です。
(※この『SMARTの法則』を使った、絶対に失敗しない目標設定の具体的なやり方については、こちらの記事で詳しく解説しているので合わせて読んでみてください)

過去の僕を救ってくれた一文

さて、ここまでマネジメントに応用できる心理学をお伝えしてきましたが、僕がこの本を皆さん(特に経営者)に強くおすすめしたい理由は、実はノウハウだけではありません。
この本の第8章に、玄司さんが起業してなかなかうまくいかなかった頃の苦しいストーリーが書かれています。
「独立してからの自分は、講演の依頼は来ず、セミナーを開いても参加者は集まらず、家庭の中でも収入がなくて妻に頼りっぱなしで、役に立てているかどうかも疑問に思っていました。(中略) やらなければいけないことはわかっているし、とにかく行動しなければ前に進まないことはわかっていました。でも、動けないのです。 そのとき、はじめて学校へ来られない子の気持ちが少しわかった気がしました。」 (木村玄司著『何を言っても聞かない思春期の我が子が「ちょっと頑張ってみようかな」と言い出すシンプルな3つの秘訣』より引用)
この「そのとき、はじめて学校へ来られない子の気持ちが少しわかった」という一文を読んだ瞬間。 心の奥底の檻に閉じこもり、二度と開けられないように何重にもカギをかけていた過去の僕のところへ、玄司さんがカギを開けて入ってきて、そっと寄り添ってくれた気がしました。
間違いなくその瞬間、僕の中でずっと縛られていた何かがスッと外れる感覚があったのです。 苦しかったあの頃の自分を、この本が解き放ってくれました。「玄司さんみたいな人が担任だったらよかったな」と心から思います。
部下のマネジメントに悩む方はもちろん、社長であるあなた自身がプレッシャーで動けなくて苦しいときにも、ぜひこの素晴らしい本を手に取ってみてください。(できれば書店で!)
【残酷な真理】モチベーション管理に依存する組織の限界

……さて。 ここまで、従業員のやる気を引き出す素晴らしい心理学や、僕が救われた本のご紹介をしてきました。 人と人が関わり合い、信頼関係を築く上で、この本に書かれているアプローチは間違いなく最高の一手です。
しかし、こと「ビジネスで継続的に売上をあげる構造」という点において、最後に経営者であるあなたに非常に残酷な真理をお伝えします。
もしあなたの会社が、「社員のやる気(モチベーション)を社長が必死に管理してあげないと、売上があがらない状態」になっているのだとしたら。 そもそも、そのビジネスモデル(構造)自体に、致命的な欠陥があります。
人間のモチベーションというものは、どれだけ素晴らしいマネジメント術を駆使しても、必ず上がったり下がったりを繰り返す不安定なものです。 それに会社の売上を依存させている限り、社長であるあなたは一生、社員の顔色をうかがい、お尻を叩き続ける「終わりのないマネジメント地獄」から抜け出せません。
経営者の本当の仕事は、社員のテンションを上げる「チアリーダー」になることではありません。 「モチベーションが低くても、凡人がルール通りに動くだけで、自動的にお客さんが集まり、売上をあげる仕組み(マーケティングのシステム)」を設計することです。
あなたの会社の「見えないブレーキ」はどこか?

「何度言っても社員が動かない」 そう悩んでいるとき、実は問題の根本は「社員のやる気」ではなく、「凡人がモチベーションに左右されず、無理なく売上をあげるための導線(仕組み)が整っていないこと」にあります。
心理学を学び、部下の心に寄り添うことは、人と人が関わる組織において間違いなく素晴らしいことです。僕自身、玄司さんの本に書かれているような「心を通わせるマネジメント」は絶対に必要だと思っています。
しかし、社長であるあなたの最大の使命は、彼らの「やる気」に会社の命運(売上)を背負わせるのをやめることです。 気合いや根性に依存する脆い組織から抜け出し、誰がやっても成果が出る「強固な仕組み」を作り上げること。それこそが、あなた自身と、あなたの大切な従業員を守る本当の「愛」なのです。
今日から、部下のお尻を叩くのをやめて、ビジネスの構造(仕組み)に目を向けてみませんか?
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
西田貴大
P.S. ちなみに冒頭の話で、高松には何をしに行ってたのか? それは、世界No.1コーチ アンソニー・ロビンズのUPW(Unleash The Power Within)というセミナーで行われている、恐怖に立ち向かう勇気を身につける名物ワーク『火渡り』を、とあるお寺に体験しに行ってました!(トニーのセミナーで火渡りをするには海外に行く必要があるけど、ここだと1時間ちょいだからね)

P.P.S. 現在、あなたのビジネスがなぜ「社員のやる気に依存し、社長が働き続けないと回らない」状態になっているのか? 無駄なマネジメントの労力を断捨離し、ビジネスの全体システムを根本から直したい真面目な経営者の方に向けて、客観的な事実をあぶり出す『マーケティング・ボトルネック診断』を無料で公開しています。
たった60秒、いくつかの質問に直感で答えていただくだけで、現在のあなたのビジネスにおいて「最もテコ入れすべき一番弱い輪(ボトルネック)」を瞬時に特定します。
社員の不安定なやる気に依存する状態から抜け出し、強固な仕組みを作るための第一歩として、まずはご自身のビジネスの「見えないブレーキ」の正体を確認してみてください。
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